弊社及び弊社の運営するファンドは日本証券金融株式会社(以下「日証金」と言います。)の株主です。弊社は日証金に対し、日本銀行(以下「日銀」と言います。)の天下りの実態の解明と日証金の株主価値向上のため、株主提案権を行使しています。株主提案の詳細についてはこちらをご覧ください。
日証金が上場した1950年以来、社長を務めた10人は現社長の櫛田誠希氏に至るまで、全員が日銀OBです。日銀OBが経営トップの座に就き続けて、実に70年以上が経過しています。天下り状況のデータベースはこちら(.xlsx)からご覧ください。
(出所:有価証券報告書)
日証金の執行役は平均で5,027万円の報酬を得ています。これは日銀総裁の約1.5倍、櫛田社長の最終役職であった日銀理事の報酬2,155万円の約2.5倍に相当します。
(出所:日本銀行(令和2年度)「日本銀行の役職員の報酬・給与等について」及び有価証券報告書より弊社作成)
後述の通り、日証金の株価は低迷しており、天下りによって日銀勤務時代を遥かに上回る額の給与を得た日銀OBの経営トップは、株主価値向上のために努力するインセンティブを失っている恐れがあると、弊社は強い懸念を抱いています。
そこで、経営トップの報酬水準が適正な水準であると示していただくことを目的に、代表執行役の報酬を個別に開示することを弊社は株主提案しました。
現社長の櫛田氏は、2019年5月に顧問として日証金に就職し、翌月2019年6月に代表執行役社長に就任しました。現会長で前社長の小林氏、現特別顧問で前々社長の増渕氏に至っても同様の経歴です。
3氏とも共通して「日本銀行理事などを歴任し、金融・証券の分野での幅広い経験・知識を有する」ことを理由に取締役、そして経営トップに指名されています。しかし、後述する通り、少なくとも近年の日証金の株価推移やROEを見る限り、「日銀理事としての経験」が日証金の価値向上につながっているとは考えられません。
日証金に経営トップとして天下りした日銀OBは社長、会長、特別顧問とその役職を変え日証金から報酬を得続けています。2004年に社長に就任した増渕氏は、特別顧問として未だに日証金から報酬を得ています。
(出所:コーポレートガバナンス報告書より弊社抜粋)
顧問制度については、「顧問の役割・処遇は、各社によって一様でないがゆえに、外部から認識できない点で不透明さがある」(※)、とガバナンス上の問題が指摘されており、特に日証金の特別顧問は日銀OBのみが就任してきた特権的な役職です。
※経済産業省(2018年9月)『コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針』より弊社抜粋
日証金の経営陣は、特別顧問の意義・役割について、以下のとおり説明しています。
「社長経験者によるPR効果に期待している。財界活動を通じて当社のリレーションに貢献する。広い意味ではそれも当社の企業価値向 上に貢献している。」
弊社は、この説明には全く納得しておらず、特別顧問という日銀OBの特権階級制度を廃止すべきであると考えます。
そして特別顧問という役職が、現状、定款に定めの無い不透明な役職となっており、「定款からの削除」を求めることができないため、以下の2段階の対応を行います。
多くの株主が「特別顧問を日証金の定款に定義すること」に反対していただけることを期待します。さらに、日銀OBの日証金経営陣は、本株主提案への反対票を投じた株主の声を尊重し、特別顧問制度を廃止することを期待します。
弊社は、日銀から天下った社長が、会長を経て社長就任の18年後もなお特別顧問の地位に居続けることは、ガバナンスの点で問題があるのみならず、社会的公正(いわゆるESGの「S」)にも反するものと考えています。これは、後述の経営トップ以外の日証金への天下りについても同様です。
日銀の役職員は、日本銀行法第30条により、「法令により公務に従事する職員とみなす」とされています。
にもかかわらず日銀OBの再就職先に上場企業である日証金が深く組み込まれ、同社の経営幹部のポジションが既得権益のような状態になっていることは、社会的に公正なものとは言えないでしょう。
日証金は経営幹部の選任に当たっては以下の方針を定めています。
※日証金『コーポレートガバナンスに関する基本方針』より弊社抜粋
しかし、日銀OBのみが社長に就任していることを踏まえれば、上記方針が遵守されているとは到底考えられず、弊社は指名委員会委員長である小幡氏に対して、面談で質問しました。
日証金の実態は、公表されている取締役・執行役指名の方針等や指名委員会委員長である小幡取締役の説明とは大きく乖離していると言わざるを得ず、社長案を追認しているだけの指名委員会において、社内人材の育成について本当に議論されているかも疑わしいと考えています。
なお、杉野翔子社外取締役(指名委員)は、弊社との面談を拒否しております。
小幡取締役は東京三菱銀行副頭取などの大手金融機関の経営者の、杉野取締役は藤林法律事務所のパートナー弁護士の、それぞれの経験・見識を活かして真に「独立した客観的な立場から」指名委員会での議論を行えているのか、疑問を持たざるを得ません。
日銀からの天下りは経営トップだけではありません。日銀の局長経験者も過去40年以上にわたって日証金の常務/専務に天下っていることが確認できます。そして局長経験者は、日証金に6~7年勤め、経営トップに就くことなく退任するという同じ道を辿っています。
(出所:有価証券報告書)
(出所:有価証券報告書)
日証金で社長に就任しなかった日銀OBは、日証金の子会社である日証金信託銀行の社長へと就任しています。そして、日証金信託銀行の社長退任後には、同社の相談役や顧問へと就任しています。
※中証金は「中部証券金融株式会社」の略
(出所:有価証券報告書及び日経テレコン)
常務は業務執行を担う役職であり、日銀での経験が直接的に活かされる役職ではないと考えられます。しかし、日銀OBの岡田専務は入社1カ月で常務に就任しており、日証金から「特別待遇」を受けている可能性があります。
なお、岡田専務の日銀における最終役職は発券局長であるため、その報酬は最大でも1,700万円程度であったと推定されます。前職の給与と比較しても、執行役の平均報酬5,027万円は非常に大きな金額です。
(出所:日本銀行「日本銀行における職員の給与等の支給の基準」及び有価証券報告書より弊社作成)
岡田専務は入社1カ月で常務に就任しており、弊社としてはその理由を知るべく以下の通りの対話を岡田専務と行っています。
上記の対話を経て、弊社は、岡田専務は日銀OBであることだけが理由で常務に就任したのであろうと理解しております。
そこで、弊社は、日銀OBが天下った後、日証金から適正な報酬を受領していることを確認する目的で、日銀OBの取締役、執行役、特別顧問、連結子会社の役員等の報酬の個別開示を株主提案しました。
櫛田社長は日銀の総務人事局長であった2010年、短資会社に対する日銀からの天下りの実態について、参考人として国会で質問に答弁しています。日銀からの天下りについて「再就職をめぐる世間の疑念を晴らすべく努力している」と国会で答弁した過去を持ちながら、自らが堂々と日証金に天下りしたわけです。
(出所:第174回国会 衆議院 決算行政監視委員会第一分科会 第1号 平成22年5月17日:発言No.241~253より弊社抜粋。発言内容は適宜弊社にて省略及び要約している。)
上述の櫛田社長の日銀の人事総務局長当時の答弁の通り、日銀は、日本銀行法に従い、「職務の適切な執行を確保する」ために、「服務に関する準則」を定めています。そして、その規則において、日銀は当座預金取引先である日証金や日証金信託銀行への退職後2年以内の再就職の自粛を定めています。
(出所:日本銀行「服務に関する準則」より弊社抜粋)
しかし、この再就職制限は「退任後2年経過すれば天下りできる」ルールとして運用されているだけなのです。改めて櫛田社長と小林会長の経歴を見れば、アフラック生命保険のシニア・アドバイザーを経由することで、天下り規制の適用外となっていることが理解できます。
かつて国会で、櫛田社長は「再就職ルールの遵守をしながら、再就職をめぐる世間の疑念というのを晴らすべく努力している」と発言しましたが、このような形ばかりの再就職制限ルールの遵守で世間の疑念を晴らせるとは考えられません。
このように、日証金の経営者に天下った日銀OBの方々は、日証金の株主価値を毀損させている(解散価値を大きく下回る株価を放置している)責任者なのです。
弊社は日銀の天下り状況の全容を把握するため、1950年以降の会社開示資料及び各種報道資料を元に日銀の天下り状況をデータベース化しています。データベースはこちら(.xlsx)からご覧ください。