株式会社ストラテジックキャピタル及び同社の運営するファンド(以下、総称して「SC」といいます。)は大阪製鐵株式会社(以下「大阪製鐵」又は「当社」といいます。)の株主です。SCは大阪製鐵に対し、株主価値向上のため、株主提案権を行使して次の議案を提出いたしました。
当社および当社の親会社である日本製鉄株式会社(以下「日本製鉄」といいます。)は共に上場企業であり親子上場となっています。当社は、日本製鉄への預け金および貸付金(以下、「CMS等」といいます。)や役員の天下り先として親会社の利益に寄与している一方、少数株主の利益を棄損し続けており、支配株主と一般株主との間に利益相反リスクが生じていることは明らかです。
そのため、当社の株主価値の向上及びガバナンスの改善に向け、以下の提案をいたします。当社は不特定多数の株主から資本を調達する上場会社であり、このような施策により株主価値を高めるべきで、もしそれが出来ないのであれば、日本製鉄が完全子会社化を実施し非上場となるようグループとして対応すべきです。
当社の株価バリュエーションは、2008年以降、PBR1倍を下回って推移しています。また、2024年3月25日時点でもPBRは0.56倍と非常に低水準となっています。当社の株価推移からは、当社の経営方針が、株主の利益を毀損してきたことが明らかであり、株主価値の向上のために経営方針や資本政策の転換が必要です。
(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成)
PBR1倍割れが常態化しているのは、ROEが株主資本コストに満たないことが主因です。SCは当社の株主資本コストは11.0%程度だと推測していますが(なお、2024年3月25日時点で当社の株主資本コストをBloombergは11.2%、Quickは10.7%程度としています)、ROEはその水準を大きく下回る状況が継続しています。また、中期経営計画にROE等の資本効率目標はなく、経営陣の株価や資本効率等に対する意識が低いと言わざるを得ません。株主コストを上回るROE目標を設定し、実現に向けた中期経営計画を策定し直すべきでしょう。
(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成)
ROEの構成要素を同業他社と比較すると、当社は全ての項目で最低水準となっています。利益率を高める経営努力を行うことはもちろんですが、売上高回転率や財務レバレッジも同業他社と比べて低水準に留まっており、これは総資産の30%超を占めるCMS等を行っていることが主因です。
僅か0.2%程度のリターンしか生まないCMSを現在の規模で続ける限り、当社のROEが資本コストを上回ることは不可能だと考えられ、PBR1倍割れを解消することも困難であり、当社はCMS等を速やかに禁止すべきです。
当社がCMS等を禁止した場合、2023年3月末時点で686億円の現金が活用可能となりますが、その50%を特別配当とし、残りは資本コスト以上のリターンが見込まれる事業投資等に活用すべきと考えます。
(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成)
加えて、当社は当社のインドネシア子会社であるPT. KRAKATAU OSAKA STEEL(以下、「KOS」といいます。)に対しては、当社がドル建で資金調達をしたうえで、その全額を貸付けており、2023年3月期には、約4億円の支払利息が発生しました。これは、CMSを取り崩し、ドルに転換したうえでKOSに貸付を行っていれば発生しなかった費用であり、2023年3月期末のKOSへの貸付金133億円を前提に、支払利息の金利約3.0%とCMSの受取金利約0.2%の差分を考慮すると、年間約3.7億円程度の損失が発生いたしました。
これは、金利差を考えると当然に予見できたことです。大阪製鐵の取締役が日本製鉄を慮るが余り、経済的利益を犠牲にしながらCMSを継続していたことが伺われます。
足元、当社は上記のドル建負債を返済しましたが、CMS等は親会社の資金管理には寄与する一方、子会社の株主価値を棄損させる制度であり、当社はCMS等への資金提供を速やかに中止すべきです。
(出所:当社開示資料より弊社作成)