大阪製鐵の株主価値向上に向けて

株式会社ストラテジックキャピタル及び同社の運営するファンド(以下、総称して「SC」といいます。)は大阪製鐵株式会社(以下「大阪製鐵」又は「当社」といいます。)の株主です。SCは大阪製鐵に対し、株主価値向上のため、株主提案権を行使して次の議案を提出いたしました。

株主提案の概要

  • 株主提案1.日本製鉄株式会社への預け金又は貸付金による資金提供を禁止すること
  • 株主提案2.特別配当を行うこと
  • 株主提案3.PBR1倍以上を目指す計画を策定し、開示すること
  • 株主提案4.取締役の過半を社外取締役とすること
  • 株主提案5.温室効果ガス排出量削減に係る計画を策定し、開示すること

株主提案の背景及びポイント

当社および当社の親会社である日本製鉄株式会社(以下「日本製鉄」といいます。)は共に上場企業であり親子上場となっています。当社は、日本製鉄への預け金および貸付金(以下、「CMS等」といいます。)や役員の天下り先として親会社の利益に寄与している一方、少数株主の利益を棄損し続けており、支配株主と一般株主との間に利益相反リスクが生じていることは明らかです。
そのため、当社の株主価値の向上及びガバナンスの改善に向け、以下の提案をいたします。当社は不特定多数の株主から資本を調達する上場会社であり、このような施策により株主価値を高めるべきで、もしそれが出来ないのであれば、日本製鉄が完全子会社化を実施し非上場となるようグループとして対応すべきです

長期にわたる株価の低迷と経営改革の必要性
PBR1倍以上を目指す計画を策定・開示する【株主提案3】
  • 当社の株価は、2008年以降、1度も解散価値であるPBR1倍を超えておらず、2024年3月25日現在のPBRは僅か0.56倍と、極めて割安に放置されています。
  • 2023年3月、東京証券取引所は、上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請し、PBR1倍に満たない企業に対しては特に強い課題意識を示しました。
  • 当社はこの要請に対し、2024年1月30日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取り組みについて」を発表いたしましたが、既存の取組を紹介するだけであり、新たな施策は皆無です。結果として、株価は全く改善していません。
  • そもそも当社は、中期経営計画を含め開示内容が極めて限定的で、ROE目標の開示もありません。日本製鉄はROE10%の中期経営計画を公表しており、その一端を担う連結子会社である当社も、同様の計画を策定し開示すべきでしょう。
  • そこで、長期的な株価の低迷から抜け出すために、ROE目標の設定および実現に向けた取組を含めたPBR1倍以上を目指す具体的で実現性の高い計画を策定・開示することを提案します。
株主価値を棄損し続ける制度
日本製鉄株式会社への預け金又は貸付金による資金提供を禁止し、余剰資金から特別配当を行う【株主提案1、2】
  • 当社によるCMS等の合計は、2023年3月期末で686億円にものぼり、2024年3月25日時点の当社の時価総額930億円の70%以上(自己株式を除くと約80%)にも達します。足元、当社はCMS等の残高を減らしましたが、2024年3月末でも473億円と依然として膨大な金額が残っています。
  • 2023年3月期末のCMS等の金利は0.2%程度であり、当然、当社の資本コストを大幅に下回っています。ROEは低迷し、結果として当社のPBRは長期的に極めて低水準で推移しています。
  • そこで、CMS制度を禁止し、余剰資金の50%を特別配当することを提案します。
ESG関連①
取締役の過半数を社外取締役とする【株主提案4】
  • 2023年3月末現在、当社の取締役は8名(うち、社外取締役3名)いますが、常勤取締役5名の全員が日本製鉄出身者となっており、実質的に日本製鉄の天下り先となっています。
  • 当社の取締役は、CMS等により親会社の資金管理に貢献する一方で、当社の株主価値を棄損させ続けています。支配株主と一般株主との間に利益相反リスクが生じていることは明らかであり、過半数は社外取締役とし、ガバナンスを強化することを提案します。
ESG関連②
温室効果ガス排出量削減に係る計画を策定し、開示する【株主提案5】
  • 当社は、温室効果ガスの総排出量に関し、2030年に総排出量について、2013年比で30%削減し、2050年にカーボンニュートラルを目指すとしていますが、そのための方策は具体性が欠け、達成に向けた時間軸や必要な資金計画等の開示もありません。
  • 電炉事業は、鉄スクラップをリサイクルし鉄鋼製品を製造していることから、高炉事業と比べ、環境負荷が小さく、脱炭素社会の実現に向けて追い風であるにもかかわらず、開示内容が不十分であるため、環境対策に関心の高い投資家から当社が十分に評価されているとは考えられません。
  • そのため、スコープ1から3の短期及び中期の温室効果ガス削減目標、およびその実現に向けた資金計画の策定し、開示することで、資本コストを低下させることを提案します。

大阪製鐵が抱える課題と解決策

PBR1倍を超えられない株価

当社の株価バリュエーションは、2008年以降、PBR1倍を下回って推移しています。また、2024年3月25日時点でもPBRは0.56倍と非常に低水準となっています。当社の株価推移からは、当社の経営方針が、株主の利益を毀損してきたことが明らかであり、株主価値の向上のために経営方針や資本政策の転換が必要です。

PBR(2004〜)

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成)

資本コストを下回る資本効率性

PBR1倍割れが常態化しているのは、ROEが株主資本コストに満たないことが主因です。SCは当社の株主資本コストは11.0%程度だと推測していますが(なお、2024年3月25日時点で当社の株主資本コストをBloombergは11.2%、Quickは10.7%程度としています)、ROEはその水準を大きく下回る状況が継続しています。また、中期経営計画にROE等の資本効率目標はなく、経営陣の株価や資本効率等に対する意識が低いと言わざるを得ません株主コストを上回るROE目標を設定し、実現に向けた中期経営計画を策定し直すべきでしょう。

ROEの推移と株主資本コスト

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成)

CMS等の影響により、同業他社を大きく下回る資本効率

ROEの構成要素を同業他社と比較すると、当社は全ての項目で最低水準となっています。利益率を高める経営努力を行うことはもちろんですが、売上高回転率や財務レバレッジも同業他社と比べて低水準に留まっており、これは総資産の30%超を占めるCMS等を行っていることが主因です。
僅か0.2%程度のリターンしか生まないCMSを現在の規模で続ける限り、当社のROEが資本コストを上回ることは不可能だと考えられ、PBR1倍割れを解消することも困難であり、当社はCMS等を速やかに禁止すべきです。
当社がCMS等を禁止した場合、2023年3月末時点で686億円の現金が活用可能となりますが、その50%を特別配当とし、残りは資本コスト以上のリターンが見込まれる事業投資等に活用すべきと考えます。

同業他社との比較(デュポン分析)

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成)

CMS等による損失

加えて、当社は当社のインドネシア子会社であるPT. KRAKATAU OSAKA STEEL(以下、「KOS」といいます。)に対しては、当社がドル建で資金調達をしたうえで、その全額を貸付けており、2023年3月期には、約4億円の支払利息が発生しました。これは、CMSを取り崩し、ドルに転換したうえでKOSに貸付を行っていれば発生しなかった費用であり、2023年3月期末のKOSへの貸付金133億円を前提に、支払利息の金利約3.0%とCMSの受取金利約0.2%の差分を考慮すると、年間約3.7億円程度の損失が発生いたしました。
これは、金利差を考えると当然に予見できたことです。大阪製鐵の取締役が日本製鉄を慮るが余り、経済的利益を犠牲にしながらCMSを継続していたことが伺われます。
足元、当社は上記のドル建負債を返済しましたが、CMS等は親会社の資金管理には寄与する一方、子会社の株主価値を棄損させる制度であり、当社はCMS等への資金提供を速やかに中止すべきです。

CMSによる損害額(億円)

(出所:当社開示資料より弊社作成)