弊社及び弊社の運営するファンド(“SC”)は極東開発⼯業株式会社(“極東開発“)の株主です。
SCは極東開発に対し、企業価値向上のため、株主提案権を⾏使して次の議案を提出しました。

株主提案の概要

  • 株主提案1.配当性向100%⼜はDOE8%のいずれか⼤きい⾦額を配当すること
  • 株主提案2.取締役に対して株価連動報酬を⽀給すること
  • 株主提案3.社⻑である布原達也⽒に対する賞与の計算⽅法を開⽰すること
  • 株主提案4.従業員に対して株価を条件とした賞与を⽀給すること
  • 株主提案5.政策保有株式の売却に向けて行動すること

株主提案の背景及びポイント

積み上がる⾃⼰資本と低下するROE
配当性向100%⼜はDOE8%のいずれか⼤きい⾦額を配当する株主還元方針とする
  • 極東開発の株価は10年以上にわたって解散価値未満で推移することが常態化しており、その原因の⼀つは、⾃⼰資本の過剰な積み上げに伴うROEの低下であると考えられます。
  • 実際に、極東開発の自己資本比率は約70%と非常に高い水準であり、現状の株主還元水準が継続すると、さらに自己資本は積み上がり、ROEは一段と低下していきます。
  • そこで、⾃⼰資本の⽔準を適正化するために、配当性向100%⼜はDOE8%のいずれか⼤きい⽅を株主還元⽅針として採⽤することを求めます。
企業価値を無視した取締役への業績連動報酬
PBR に連動した株式報酬を導⼊する
  • 極東開発の経営陣は企業価値とは無関係に報酬を得ており、⾮効率的な経営を改善し、企業価値を改善するインセンティブが与えられていません。その結果、極東開発の株価は解散価値未満のまま、⻑年にわたって推移しています。
  • そこで極東開発の経営陣に、自身の報酬と企業価値が連動し、特に解散価値以上の株価を実現することに大きなインセンティブが働くような株式報酬制度の導入を提案します。
  • また、企業価値を向上させていないにもかかわらず支給された、現行の業績連動報酬については、その計算方法の内訳を開示することを提案します
解散価値割れが当たり前となった「企業価値軽視の極東開発工業」
従業員に対してPBR と連動した賞与を付与する
  • 極東開発は国内の特装⾞市場におけるマーケットリーダーであり、事業そのものの価値は疑う余地がありません。しかし、極東開発の株価は⻑期にわたって低迷しており、これには全社的な企業価値軽視の⾵⼟があると考えられます。
  • そこで、極東開発の企業価値向上が実現し、株価が解散価値以上となった場合、従業員に対しても総額約10億円規模の賞与を付与することを提案します。
  • ⻑期にわたる株価低迷から脱するため、全社⼀丸となって企業価値向上に邁進することを求めます。
経営に対する規律の緩みや資本効率性の低下を招く政策保有株式
政策保有株式を売却し、企業価値向上の原資とする
  • 極東開発は「取引関係の強化による収益拡⼤」を⽬的に政策保有株式を保有しています。しかし、このような保有⽬的は取引先によって否定されており、極東開発経営陣は政策保有株式の保有の是⾮について、適切な判断を⾏うことができていません。
  • 従って、政策保有株式の売却を推進し、売却によって得た資金は企業価値向上のために活用することを提案します。

極東開発の資本政策に対する誤った認識

SCは2022年も極東開発に対して、株主還元方針の転換を求める株主提案を行いました。極東開発はSCの株主提案に反対しましたが、その理由には非合理的な内容が多々含まれていました。

①「他の上場企業に比べそん⾊ない株主還元」

・・・新中期経営計画においては・・・と目標設定することで、更なる株主還元の充実を図ってまいります。当社取締役会としては他の上場企業の水準と比してそん色のない株主還元を計画しております。・・・

― 2022年定時株主総会招集通知より弊社抜粋

そもそも、資本政策については自社の財務や事業環境に照らして最適解を探すべきであり、他の上場企業と比較することに意味がありません。
しかし、あえて極東開発の主張の問題点を指摘すれば、他の上場企業の水準と比して、株価⽔準は著しく劣り⾃⼰資本⽐率は著しく⾼いことを自認すべきです。自社の株価や財務状況を考慮せず、株主還元の水準だけを取り出し「そん色ない」と主張することは非合理的です。

(出所:QUICK ASTRA MANAGER、極東開発が株主提案に対する反対意⾒公表の前⽇2022年5⽉11⽇時点の値。全東証上場企業が対象)

②「中⻑期的に企業価値を向上するため(反対)」

・・・もし仮に本議案のとおりとした場合、配当性向は100%となり、即ち期間収益の全てを株主様に還元することとなります。当社の持続的成長や、中長期的に企業価値を向上するために必要不可欠な投資に支障をきたす恐れがある極端なご提案であると考えます。・・・

― 2022年定時株主総会招集通知より弊社抜粋

極東開発の経営陣が、中⻑期的な企業価値向上を実現できたことはありません。10年前も、今も、常に株価は解散価値未満です。あろうことか、布原達也⽒が社⻑に就任して以降、さらに株価は低迷しています。

また、2014年に経済産業省が「上場企業は最低限ROE8%を達成すべき」という目標が掲げてから中長期といえる期間が経過しました。排ガス規制の強化による特需や不動産の売却による一過性の収益がなければ、未だにROE8%を下回ったままです。

(出所:QUICK ASTRA MANAGER、ROEは経常利益から実効税率を除して算定)

中長期に企業価値向上を果たせなかった極東開発経営陣の「中長期的」という言葉は、単なる先延ばしに過ぎません。
企業価値向上のために、今日から取り組んでいただくことを強く求めます。

③「必要不可⽋な投資に⽀障をきたす恐れ」

・・・当社の持続的成長や、中長期的に企業価値を向上するために必要不可欠な投資に支障をきたす恐れがある極端なご提案であると考えます。・・・

― 2022年定時株主総会招集通知より弊社抜粋

本当に極東開発は投資を行うための資金を保有/調達できないのでしょうか。極東開発の経営陣は、有利子負債の有効活用を考えていないだけのように思われます。

仮に極東開発が新明和工業と同じ資産規模になるまで、600億円以上の投資を行っていく場合でも、その全額を有利子負債で調達可能です。そしてこの場合でも、極東開発の財務健全性は新明和工業と同等か、それ以上です。
そして、2022年にSCの増配提案を受け入れていたとしても、約130億円相当の支払いが発生するだけであり、それでもまだ500億円以上の借入余力があります。

そもそも存在しない遥か先の投資計画を根拠に、資本政策を考えるべきではありません。
(なお、2023年の増配提案は、会社提案に加えて約70億円の配当の支払いが発生する見込みです。)

(出所:有価証券報告書より弊社作成、数値は22/3期末時点)

④「有事に備えて内部留保の確保が必要」

極東開発による主張の全文は以下のとおりです


・・・⾜元のロシア・ウクライナ問題などの国際的な政情不安、資源・エネルギーの⾼騰などによる経済の混乱、地震などの⾃然災害や、コロナに代表される感染症などの有事にも備えつつ、極東開発が安定して事業継続を⾏うためには、収益の全てを株主様に還元せず、⼀定の内部留保を確保し、安定的な経営基盤を設けることが必要です・・・

― 2022年定時株主総会招集通知より弊社抜粋

極東開発は「有事に備えるために内部留保が必要」、と主張しています。しかし、極東開発の内部留保は本当に「有事ために必要な備え」なのでしょうか。このような極東開発の主張は、過去の有事も踏まえた自己資本やネットキャッシュの推移をみる限り、何ら根拠がないように思われてなりません。
むしろ、過去の有事から何も学ばず、来るべき有事に対して何をすべきか備えておらず、だから感覚的に「もしものために」と、このように根拠のない主張ができてしまうのではないか、とSCは強く危惧しています。
むやみやたらと内部留保を積み上げることは有事に対する備えではなく、ただの経営陣の怠慢です。

(出所:QUICK ASTRA MANAGER)


実際に、足元の半導体不足や日野自動車の不正というサプライチェーンの混乱、資源価格の高騰という「有事」に極東開発の経営陣はどう対処したのでしょうか。業績からは、本業に対する需要は旺盛でサプライチェーンの混乱によって受注残高が積みあがる一方で、原材料価格が上昇し収益性が大きく低下していることが見て取れます。

(出所:QUICK ASTRA MANAGER及び決算説明資料。営業損益は特装車セグメント損益、受注残高は極東開発単体)

このような本当の有事への備えとして、どれくらいの内部留保や現金が必要であったのか、極東開発は検証しているのでしょうか。

減益が避けられない事実は理解するものの、内部留保の過剰な蓄積が「有事」への備えではなく、「経営陣の怠慢」への備えになっており、「有事」への機動的な対応を妨げているのではないか、とさえ疑われます。

企業価値向上を企図しない業績連動報酬

極東開発は2021年から業績連動報酬制度を導⼊しました。しかし、極東開発の業績連動報酬は、取締役に企業価値向上の適切なインセンティブを与えるものではありません。

あいまいかつ都合良く利用された他社水準

新明和工業と比較すればその差は歴然です。
極東開発の業績連動株式報酬の決定方針は「業績や環境等を総合的に考慮」して決定する、という曖昧なものです。これは、新明和工業が営業利益及びROEの水準ごとの具体的な計算方法を開示しているのと対照的です。

(出所:有価証券報告書)

「株主の皆様との⼀層の価値共有を進めることを⽬的とした制度」と謳い、株主に承認を求めて業績連動報酬を導入しておきながら、なぜ新明和⼯業のような公明正⼤な⽅針を採⽤しなかったのか、理解できません。
極東開発の経営陣は「新明和工業の報酬制度や開示は参考にしているが、投資家からどのような開示が評価されるのか分からなかった」と、曖昧な開示になってしまった理由について、SCとの面談では説明しています。

しかし、極東開発の報酬制度は開示だけでなく、その内容も理解しがたいものとなっています。

業績連動報酬の不可解な変動

実際に、極東開発の取締役に対して⽀払われた業績連動報酬は、企業価値とは無関係に⽀払われているように思われます。過去3期の業績連動報酬を⽐較すれば、違和感を覚えて当然です。

(出所:QUICK ASTRA MANAGER及び有価証券報告書)

このように、極東開発は企業価値と連動した報酬制度を⾃発的に導⼊しないどころか、あえて避けているとさえ疑われます。

そこで、社長である布原達也氏に対して支払われた業績連動報酬については、その根拠の開示を求めます。
そして、最低限PBR1倍以上の株価を達成するために、PBR1倍を強く意識するように設計された、株価条件型株式報酬制度の導入を提案します。
全社一丸となった取組みを推進するために、株価条件型株式報酬制度は経営幹部のみならず従業員に対しても付与することを求めます。