弊社及び弊社の運営するファンド(“SC”)は極東開発⼯業株式会社(“極東開発“)の株主です。
SCは極東開発に対し、企業価値向上のため、株主提案権を⾏使して次の議案を提出しました。
SCは2022年も極東開発に対して、株主還元方針の転換を求める株主提案を行いました。極東開発はSCの株主提案に反対しましたが、その理由には非合理的な内容が多々含まれていました。
・・・新中期経営計画においては・・・と目標設定することで、更なる株主還元の充実を図ってまいります。当社取締役会としては他の上場企業の水準と比してそん色のない株主還元を計画しております。・・・
― 2022年定時株主総会招集通知より弊社抜粋
そもそも、資本政策については自社の財務や事業環境に照らして最適解を探すべきであり、他の上場企業と比較することに意味がありません。
しかし、あえて極東開発の主張の問題点を指摘すれば、他の上場企業の水準と比して、株価⽔準は著しく劣り⾃⼰資本⽐率は著しく⾼いことを自認すべきです。自社の株価や財務状況を考慮せず、株主還元の水準だけを取り出し「そん色ない」と主張することは非合理的です。
(出所:QUICK ASTRA MANAGER、極東開発が株主提案に対する反対意⾒公表の前⽇2022年5⽉11⽇時点の値。全東証上場企業が対象)
・・・もし仮に本議案のとおりとした場合、配当性向は100%となり、即ち期間収益の全てを株主様に還元することとなります。当社の持続的成長や、中長期的に企業価値を向上するために必要不可欠な投資に支障をきたす恐れがある極端なご提案であると考えます。・・・
― 2022年定時株主総会招集通知より弊社抜粋
極東開発の経営陣が、中⻑期的な企業価値向上を実現できたことはありません。10年前も、今も、常に株価は解散価値未満です。あろうことか、布原達也⽒が社⻑に就任して以降、さらに株価は低迷しています。
また、2014年に経済産業省が「上場企業は最低限ROE8%を達成すべき」という目標が掲げてから中長期といえる期間が経過しました。排ガス規制の強化による特需や不動産の売却による一過性の収益がなければ、未だにROE8%を下回ったままです。
(出所:QUICK ASTRA MANAGER、ROEは経常利益から実効税率を除して算定)
中長期に企業価値向上を果たせなかった極東開発経営陣の「中長期的」という言葉は、単なる先延ばしに過ぎません。
企業価値向上のために、今日から取り組んでいただくことを強く求めます。
・・・当社の持続的成長や、中長期的に企業価値を向上するために必要不可欠な投資に支障をきたす恐れがある極端なご提案であると考えます。・・・
― 2022年定時株主総会招集通知より弊社抜粋
本当に極東開発は投資を行うための資金を保有/調達できないのでしょうか。極東開発の経営陣は、有利子負債の有効活用を考えていないだけのように思われます。
仮に極東開発が新明和工業と同じ資産規模になるまで、600億円以上の投資を行っていく場合でも、その全額を有利子負債で調達可能です。そしてこの場合でも、極東開発の財務健全性は新明和工業と同等か、それ以上です。
そして、2022年にSCの増配提案を受け入れていたとしても、約130億円相当の支払いが発生するだけであり、それでもまだ500億円以上の借入余力があります。
そもそも存在しない遥か先の投資計画を根拠に、資本政策を考えるべきではありません。
(なお、2023年の増配提案は、会社提案に加えて約70億円の配当の支払いが発生する見込みです。)
(出所:有価証券報告書より弊社作成、数値は22/3期末時点)
極東開発による主張の全文は以下のとおりです
・・・⾜元のロシア・ウクライナ問題などの国際的な政情不安、資源・エネルギーの⾼騰などによる経済の混乱、地震などの⾃然災害や、コロナに代表される感染症などの有事にも備えつつ、極東開発が安定して事業継続を⾏うためには、収益の全てを株主様に還元せず、⼀定の内部留保を確保し、安定的な経営基盤を設けることが必要です・・・
― 2022年定時株主総会招集通知より弊社抜粋
極東開発は「有事に備えるために内部留保が必要」、と主張しています。しかし、極東開発の内部留保は本当に「有事ために必要な備え」なのでしょうか。このような極東開発の主張は、過去の有事も踏まえた自己資本やネットキャッシュの推移をみる限り、何ら根拠がないように思われてなりません。
むしろ、過去の有事から何も学ばず、来るべき有事に対して何をすべきか備えておらず、だから感覚的に「もしものために」と、このように根拠のない主張ができてしまうのではないか、とSCは強く危惧しています。
むやみやたらと内部留保を積み上げることは有事に対する備えではなく、ただの経営陣の怠慢です。
(出所:QUICK ASTRA MANAGER)
実際に、足元の半導体不足や日野自動車の不正というサプライチェーンの混乱、資源価格の高騰という「有事」に極東開発の経営陣はどう対処したのでしょうか。業績からは、本業に対する需要は旺盛でサプライチェーンの混乱によって受注残高が積みあがる一方で、原材料価格が上昇し収益性が大きく低下していることが見て取れます。
(出所:QUICK ASTRA MANAGER及び決算説明資料。営業損益は特装車セグメント損益、受注残高は極東開発単体)
このような本当の有事への備えとして、どれくらいの内部留保や現金が必要であったのか、極東開発は検証しているのでしょうか。
減益が避けられない事実は理解するものの、内部留保の過剰な蓄積が「有事」への備えではなく、「経営陣の怠慢」への備えになっており、「有事」への機動的な対応を妨げているのではないか、とさえ疑われます。
極東開発は2021年から業績連動報酬制度を導⼊しました。しかし、極東開発の業績連動報酬は、取締役に企業価値向上の適切なインセンティブを与えるものではありません。
新明和工業と比較すればその差は歴然です。
極東開発の業績連動株式報酬の決定方針は「業績や環境等を総合的に考慮」して決定する、という曖昧なものです。これは、新明和工業が営業利益及びROEの水準ごとの具体的な計算方法を開示しているのと対照的です。
(出所:有価証券報告書)
「株主の皆様との⼀層の価値共有を進めることを⽬的とした制度」と謳い、株主に承認を求めて業績連動報酬を導入しておきながら、なぜ新明和⼯業のような公明正⼤な⽅針を採⽤しなかったのか、理解できません。
極東開発の経営陣は「新明和工業の報酬制度や開示は参考にしているが、投資家からどのような開示が評価されるのか分からなかった」と、曖昧な開示になってしまった理由について、SCとの面談では説明しています。
しかし、極東開発の報酬制度は開示だけでなく、その内容も理解しがたいものとなっています。
実際に、極東開発の取締役に対して⽀払われた業績連動報酬は、企業価値とは無関係に⽀払われているように思われます。過去3期の業績連動報酬を⽐較すれば、違和感を覚えて当然です。
(出所:QUICK ASTRA MANAGER及び有価証券報告書)
このように、極東開発は企業価値と連動した報酬制度を⾃発的に導⼊しないどころか、あえて避けているとさえ疑われます。
そこで、社長である布原達也氏に対して支払われた業績連動報酬については、その根拠の開示を求めます。
そして、最低限PBR1倍以上の株価を達成するために、PBR1倍を強く意識するように設計された、株価条件型株式報酬制度の導入を提案します。
全社一丸となった取組みを推進するために、株価条件型株式報酬制度は経営幹部のみならず従業員に対しても付与することを求めます。