弊社及び弊社の運営するファンド(“SC”又は“弊社”)はガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社(“ガンホー”または“当社”)の株主です。
SCはガンホーに対し、株主価値向上のため、株主提案権を行使して次の議案を提出しました。

株主提案の概要

  • ――― 報酬制度の抜本的見直し ―――
  • 株主提案1.基本報酬の変更理由の開示
  • 株主提案2.業績連動報酬制度を適正化すること
  • 株主提案3.株価連動報酬の導入
  • ――― 資本政策の抜本的見直し ―――
  • 株主提案4.178億円相当を配当すること
  • 株主提案5.配当金額を株主総会で決定すること
  • 株主提案6.自己株式を消却すること

3.4億円の報酬は何のため

過去10年間で、時価総額と営業利益は大幅に下落した一方で、森下社長の報酬は1.2億円から3.4億円への大幅アップとなっています。
SCは、ちぐはぐな報酬制度と資本政策を抜本的に見直し、沈み続ける業績/株価が浮上するきっかけづくりを行うために株主提案を行いました。

10年間で株価/業績ともに大きく下落したが森下社長の報酬は大幅に増加した

(出所:有価証券報告書及びQUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成。単位は時価総額及び営業利益が億円、森下社長の報酬が百万円。時価総額は2014年初から2024年末の期間が対象であり、自己株式を控除している。)

業績や株価を無視した報酬制度

中長期的に低迷する株主価値

ガンホーの株価推移をゲーム大手各社と比較すると、過去10年で株主総利回りは唯一のマイナス圏に落ち込んでいます。さらに、時価総額では業界最大手の任天堂のみならず、ゲーム大手各社の足元にも及ばない水準となっています。

なぜ、ガンホーを時価総額が数倍から数十倍あるゲーム大手と比較するのか、その理由は森下社長の報酬水準にあります。

ガンホーはこの10年でゲーム大手各社の足元にも及ばない水準まで没落した

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成。2024年12月末現在。株主総利回りは2014年12月末を起点として算定。略称はそれぞれバンナム:株式会社バンダイナムコホールディングス、スクエニ:株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス、カプコン:株式会社カプコン、任天堂:任天堂株式会社、ソニー:ソニーグループ株式会社及びコナミ:コナミグループ株式会社。任天堂及びソニーの時価総額は縮尺を1/5に変更して掲載。時価総額は自己株式除く。)

ゲーム大手に比肩する報酬

森下社長の報酬をゲーム大手各社の社長の報酬と比較すると、世界有数のゲーム会社である任天堂に肉薄し、カプコンやコナミより金額が少なかったことはありません。
通常、ガンホーは任天堂と比較される規模の会社ではありませんが、経営トップの報酬水準は任天堂に匹敵します。

森下社長の報酬は国内ゲーム大手に引けをとらず、最大手の任天堂と肩を並べている

(出所:有価証券報告書より弊社作成。各社のゲーム部門の業務執行の最高責任者を対象として、有価証券報告書において開示された個別報酬のうち退職金に相当する報酬を除く金額をもとに作成。バンナムはバンダイナムコエンターテインメントの担当役員、ソニーはゲーム分野の担当役員、副社長又は専務、コナミはコナミデジタルエンタテインメントの担当役員を対象としている。)

ゲーム大手に劣後する利益水準

報酬とは対照的に、特に2017年度以降の利益水準は同業他社の中でも最下位か下から2番目が定位置となっています。
ガンホーと任天堂は社長の報酬では肩を並べていますが、ガンホーの利益は任天堂の10分の1にも満たないのです。

特に2017年以降の利益水準は同業他社に大きく劣る

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成。ガンホーは営業利益に研究開発費及び減価償却費を加算した値、バンナムはデジタル事業又はネットワークエンターテインメント事業の営業利益に減価償却費を加算した値、スクエニは営業利益に減価償却費を加算した値、カプコンは営業利益に減価償却費を加算した値、任天堂は営業利益に減価償却費を加算した値、ソニーはゲーム&ネットワークサービスの営業利益に減価償却費を加算した値、コナミはデジタルエンタテインメント事業の営業利益に減価償却費を加算した値を用いて比較している。)


そして、このようなちぐはぐな報酬を認めるガンホーのガバナンスは機能しておらず、ガンホー経営陣のインセンティブを失わせていると、SCは懸念しています

ガンホーが低迷を続ける理由

「パズドラ以外」ヒット作ゼロ

ガンホーは収益のほとんどを2012年にリリースしたパズドラに依存していますが、頼みのパズドラも収益が漸減しています。
ガンホーはパズドラ以降、既に約20タイトルをリリースしており、その中には「ディズニー」や「妖怪ウォッチ」といった、元々人気のあるIPと連携したタイトルもあります。それにもかかわらず、パズドラ以外の約20タイトルは全て空振りに終わり、パズドラ依存の状態を抜け出せていません。

ガンホーは2012年リリースのパズドラ以外にヒット作を生み出せていない

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)及び有価証券報告書より弊社作成。掲載タイトルはパズドラ及びラグナロク関連タイトルを除外している。)

「1,000億円超」かけてヒット作ゼロ

ガンホーは2013年以降、パズドラ“以外”の新規タイトルの開発に累計で1,000億円以上の資金を投じたと推定されます。
しかし、2023/12期にパズドラ“以外”のタイトルから得た収益は100億円にも満たず、1,000億円超の資金を投資したリターンとして不十分なことは明らかです。

パズドラ以外の開発に10年以上の時間と1,000億円以上の資金を投じたが企業価値の向上に失敗

(出所:有価証券報告書より弊社作成。新規タイトルのリリースに費やした費用は、2013年以降のガンホー単体の販売費及び一般管理費のうち、人件費の20%、広告宣伝費の50%、業務委託費の100%並びにその他費用の50%及び減損損失の100%を合算して推定。)

「13年」かけてヒット作ゼロ

ガンホーはパズドラ以外の開発に、13年の期間と1,000億円超の資金を投じ、約20タイトルをリリースしましたがヒット作は出ていません。
13年という期間は、開発期間がより長く、試行回数がより少ないゲーム機と比較してもなお長い期間です。ゲーム開発に失敗はつきものですが、13年間の空振りは「ゲーム開発が難しいから」だけでは説明できない長さです。

13年間ヒット作がない状況はゲーム機と比較しても危機的な状況
       

求められる改革

森下社長は、社長メッセージで「挑戦と創造」を掲げ、「『世界一のエンターテインメント企業』を目指す」と語っています。この10年、森下社長の報酬だけは世界屈指のゲーム会社である任天堂に肩を並べるほどになりました。しかし、この10年でガンホーは凋落し、世界一どころか日本国内でも埋もれる存在になりつつあります。

「挑戦と創造」社長メッセージ

(出所:ガンホー公式ウェブサイト「会社情報:社長メッセージ」"https://www.gungho.co.jp/jp/company/message.html"(2025/1/22参照))


SCは、開発本部長も兼任する森下社長に対する過剰な報酬の支給が、ゲーム開発に対するインセンティブの欠如に繋がったと考えています。そこで、13年間という時間、1000億円超という金額を浪費してもなお3.4億円もの報酬が得られる現行の報酬制度を是正するために、株主提案を行いました

パートナーシップによる非公開化が最善の選択肢

SCは、ガンホーが上場企業として株主価値向上を実現することを前提に、株主提案を行っています。しかし、ガンホーにとっては、パートナーシップを通じた非公開化が最善の選択肢であると考えています。

パートナーと連携した非公開化はデメリットを伴わず、株主価値の最大化と事業成長の加速を両立させる

パートナーシップの実現を支える社外取締役

弊社によるパートナーシップとの連携を通じた非公開化の提案に対して坂井CFOは、具体的に進んでいる案件の存在は否定していますが、初期的な対話の段階から社外取締役にも情報を共有して対応していく方針であり、「企業買収における行動指針」(経済産業省)に従って適切に対応する方針であると弊社に説明しています。

ガンホーは、以下のような企業間のパートナーシップに深い知見を有する社外取締役2名を選任しており、積極的にパートナー候補が模索され、パートナーシップが推進されることをSCは期待しています。

宮川 圭治 氏

(略歴)ドイツ証券株式会社M&A部門統括責任者、リンカーン・インターナショナル株式会社会長を歴任し、現在もリンカーン・インターナショナル株式会社 シニアアドバイザーを務める。

(弊社の期待)投資銀行においてパートナーシップ実現に対する豊富なアドバイザリー実績を有するほか、リンカーン・インターナショナルは、「投資銀行リンカーン・インターナショナル 米投資ファンドの売り手FAとして独自の存在感」(MARR Online)と評価されるように、特に売り手企業の立場に立った潜在的なパートナーの探索とパートナーシップの実現に優れた能力を有していると評価されています。

宮川取締役には、パートナーシップの実現に向けてその知見を存分に活用していただけると、弊社は期待しています。

Keiji Miyakawa

(出所:Lincoln International LLC公式ウェブサイト「Our People:Keiji Miyakawa」 "https://www.lincolninternational.com/people/keiji-miyakawa/"(2025/1/22参照))

大西 秀亜 氏

(略歴)富士キャピタルマネジメント株式会社(現MCPパートナーズ株式会社)インベストメントオフィサー、株式会社リンク・セオリー・ホールディングス取締役CFO、株式会社ファーストリテイリングの執行役員CFOを歴任し、株式会社アバージェンスを創業し、現在も代表取締役を務める。

(弊社の期待)大西取締役は、リンク・セオリーHDの取締役CFOであった時に、ファーストリテイリングによるTOBによってリンク・セオリーHDは非公開化されており、パートナーシップによる非公開化をマネジメントの一人として経験したうえ、中央大学専門職大学院MBAプログラム客員教授として「企業買収とガバナンス」講座を共同担当されたご経験もお持ちです。

大西取締役には、パートナーシップの実現とガバナンスの改善いずれにおいてもその知見を存分に活用していただけると、弊社は期待しています。

大西 秀亜

(出所:株式会社アバージェンス公式ウェブサイト「会社情報:役員・幹部紹介」”https://avergence.co.jp/leadership/”(2025/1/22参照))

【株主提案】報酬制度の抜本的見直し

SCは、パートナーシップがガンホーの株主価値向上にとって最善の選択肢であると考えていますが、ガンホーが上場企業のまま株主価値向上を目指すのであれば、ガンホーの報酬制度は是正しなければなりません。

2023/12期の森下社長の報酬は、業績連動報酬0.8億円、株式報酬型ストック・オプション(“報酬型SO”)0.8億円、基本報酬1.8億円の3つから構成されています。

SCは、総額2~3億円程度で安定している森下社長の報酬が、ガンホーの業績や株価を反映するように変更することを提案しました。

森下社長の役員報酬を構成する全ての制度を抜本的に見直す必要がある

(出所:有価証券報告書より弊社作成)

株主提案①:基本報酬の変更理由の開示

総額3.4億円の報酬を議論する以前に、森下社長の基本報酬が上昇し続けている問題があります。そもそも任天堂の2倍以上ある1.8億円という水準についても是正すべきですが、森下社長の基本報酬引き上げについて、ガンホーは何ら情報開示を行っていません。

そこで、SCは報酬制度改善の第一歩として、代表取締役に対して支給する基本報酬の金額を変更した場合は変更理由の開示を行うことを求める株主提案を行いました。

森下社長の基本報酬は1.2億円から1.8億円まで0.6億円上昇したが、理由は不明

(出所:有価証券報告書より弊社作成。固定報酬と基本報酬を合算して表示している。)

株主提案②:業績連動報酬制度を適正化すること

ガンホーは2023/12期から取締役に対して業績連動報酬を支給するようになり、森下社長への支給金額は0.8億円にのぼります。しかし、業績連動報酬はその他の報酬とは“別枠”で単に追加されただけであるため、実態としては基本報酬の増額に過ぎません。

業績連動報酬は実態として基本報酬の増額に過ぎない

(出所:有価証券報告書より弊社作成)


さらに、ガンホーの業績連動報酬制度は任天堂と酷似しているため、ガンホーは任天堂を参考に業績連動報酬制度を導入したと考えられます。しかし、最も重要な計算方法の部分だけが、営業利益の「0.2%」から「0.5%」へとガンホー経営陣にとって都合よく変更されており、「お手盛り」と評価せざるを得ません。

ガンホーと任天堂の業績連動報酬制度は酷似しているが、最も重要な点「だけ」大きく異なる

(出所:ガンホーは2023年12月期有価証券報告書、任天堂は2023年3月期有価証券報告書より弊社抜粋)


そこで、SCはこのような実態として基本報酬の増額に過ぎないお手盛りの業績連動報酬制度を是正するために、固定報酬と業績連動報酬のバランスを見直すとともに、業績連動報酬の計算方法を見直すための株主提案を行いました。

SCの提案は報酬総額を変更することなく、現行制度の問題点を根本的に解決する

(出所:株主提案書より弊社作成。簡略化のために記載を省略した箇所がある。)

株主提案③:株価連動報酬の導入

ガンホーは2015年3月、「中長期的な業績拡大」や「企業価値の向上」を目的に報酬型SOを導入しました。しかし、報酬型SOの導入以降、既に10年という長期にわたって業績及び企業価値は低迷を続けています。

報酬型SOの導入以降、約10年にわたって業績及び企業価値は低迷を続けている

(出所:第18期定時株主総会招集通知及びQUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成。企業価値は時価総額からネットキャッシュを控除して算定。)


そこで、SCは無意味な報酬型SOを廃止し、報酬型SOから希薄化率を変更することなく、5年という明確な期限の中で成果を出すことを求めるための株主提案を行いました。

SCの提案は報酬総額を変更することなく、現行制度の問題点を根本的に解決する

(出所:株主提案書より弊社作成。簡略化のために記載を省略した箇所がある。)

ゲーム会社を言い訳にした怠慢経営

膨張した手元資金は適切な緊張感さえ奪う

ガンホーの手元資金は、パズドラをリリースする直前は64億円でしたが、2023/12期末には1,400億円まで膨張しています。
パズドラや連結子会社からの配当も考えれば、現在の現預金残高の水準は、今後10年以上ヒット作が出なくても全く問題ない、つまりパズドラ以降四半世紀にわたってヒット作を産み出せなくとも安泰でいられる水準です。

現預金残高はパズドラのリリース直前の63億円に対して現在は1,400億円まで膨張

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成。現預金には流動資産に区分される有価証券の残高を含む。)

硬直的な配当政策

過剰な手元資金は、ガンホーの杜撰な資本政策によって生まれました。ガンホーは、株主還元の方針として「経営体質強化のための内部留保を勘案しつつ、業績に見合った利益還元を行う」方針を掲げていますが、現実はそうではありません。

普通配当は30円で固定され、配当性向は15%にも満たない水準なのです。「とりあえず30円」という粗雑な配当政策は株主軽視であると、SCは考えています。

配当金額を30円で固定する硬直的な配当政策であり、配当性向は15%未満に留まる

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)及び有価証券報告書より弊社作成。配当性向は普通配当を基準に算定。普通配当以外の配当及び自社株買いはその他に含めて算定している。)

株主還元か疑わしい自己株式の取得

なお、ガンホーは株主還元として配当以外に自己株式の取得も行っていますが、これは株主還元ではなく、配当金の“節約”ではないか、とSCは考えています。

なぜなら、ガンホーは取得した自己株式を消却せず、「M&Aや業務提携の際に株式交換として利用することを想定している」、としています。このように消却せずに保有されている自己株式は、発行済株式数の32.9%に達します。
一方で、ガンホーは配当を1株30円と固定しているため、自己株式の取得によって配当の支払総額が毎年減少しています。

つまり、自己株式の取得は、一時的に自己株式を保有することで配当の支払総額を減らすための“節約”手段であって、株主還元ではないとSCは考えています。

自己株式が将来放出される場合、自己株式の取得は単なる配当の“節約”に過ぎない

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成)

過剰なキャッシュと低迷するバリュエーション

積みあがったガンホーの手元資金の水準をゲーム大手と比較してみると、ガンホーの問題点が明らかになります。
まずネットキャッシュの水準はゲーム大手に比して大きい、つまりガンホーの手元資金は実際に過剰な水準となっていることが分かります。

その一方で、PBRやEV/EBITDAといったバリュエーションの水準はゲーム大手に大きく劣っています。
ゲーム大手各社が保有する多額のネットキャッシュは、将来の有力タイトルを産み出す原動力として投資家からはポジティブに評価されている一方で、パズドラ以外13年間ヒット作ゼロのガンホーのネットキャッシュに対して他のゲーム会社と同様の評価は与えられていないのです。

ガンホーはゲーム大手より多くのキャッシュを持ち、株価のバリュエーションは低い

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成。ネットキャッシュ=現預金+流動資産に区分される有価証券-有利子負債-リース債務-オペレーティングリース残高、EBITDA=営業利益+減価償却費であり、いずれも2023年度の実績値を用いて算定。グループで金融事業を行うソニーは除く。)

沈み続けるガンホー

本来であれば、ゲーム会社にとって手元資金は、業界特有の浮き沈みへの対応に必要不可欠なものです。実際に、ガンホーの坂井一也CFOは任天堂を例に挙げて、「まだ手元資金が十分ではない」旨の発言も行っています。

「浮き沈みの激しい娯楽ビジネスの中で、常に新しい驚きを届けるために、現預金を中心とした流動資産を確保する財務活動の基本方針に変わりはありません。」
―任天堂「2024年3月期第2四半期決算説明会兼経営方針説明会プレゼンテーション資料」(2023年11月8日)より弊社抜粋
「ユーザーの遊び方や好みの変化等に対応していく必要があり、この変化への対応がリスク要因となる状況は以前から変わっていません。これらのリスク対応として、手元資金充実の必要性は変わっておらず、変化の対応への投資額の増加も確実に必要になってきます。」
―カプコン「統合報告書2024」より弊社抜粋

しかし、ガンホーは13年間沈み続けています。ガンホーに必要なのは、このまま沈み続けても大丈夫な手元資金ではなく、再び浮上するためのきっかけです。

そこで、SCはガンホーの資本政策を抜本的に改革するために株主提案を行いました。

【株主提案】資本政策の抜本的見直し

株主提案④:178億円相当を配当すること

「買収防衛策が廃止になり、どうにか『背水の陣』で毎期成長しないといけないと考えるようになった」と野村氏は当時を振り返る。「社内で議論し、最大の買収防衛策は、企業価値を継続的に上げることだという結論になった」
―日経ビジネス「カプコン、背水の逆転劇 復活生んだ3つの改革」(2023/12/4)

これはカプコンの野村謙吉CFOが、日経ビジネスの取材に対して、買収防衛策が廃止になった当時を振り返って答えた内容です。そしてこの言葉どおり、カプコンは2017年4月に買収防衛策を廃止して以降、株価は10倍以上になり、飛躍的な成長を遂げました。

ガンホーはこれまで、ゆとり経営を続けてきました。しかし、ヒット作が出ずとも3.4億円の報酬をもらえ、今後10年ヒット作が出なくても何も問題ない現金を積み上げるゆとり経営では、成果が出なかったのです。

そこで、SCは単体の現預金残高889億円の20%に相当する178億円(1株当たりでは318円)の配当を求める株主提案を行いました。

株主提案が可決しても現預金水準へ与える影響は軽微だが、「減少」に転じる可能性が高い

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成。現預金には流動資産に区分される有価証券の残高を含む。)

       

ガンホー全体の現預金の水準から見れば、178億円は大きな金額ではありません。しかし、「ヒット作を出さなければ現預金の水準が低下する」という危機感は、ガンホーに緊張感を復活させるために必要であると、SCは考えています。

株主提案⑤:配当金額を株主総会で決定すること

ガンホーはこれまで、株主総会ではなく、取締役会で配当金額の決定を行ってきました。その結果、ガンホーの配当はとりあえず30円という粗雑な方針になっていましたが、株主が議決権行使を通じて配当金額に対する意思表明を行う機会はこれまでありませんでした。

そこで、SCは原則として配当金額を取締役会ではなく株主総会で決定することを求める株主提案を行いました。

株主提案⑥:自己株式を消却すること

ガンホーはこれまで、取得した自己株式を十分に消却してこなかったため発行済株式数に占める自己株式の割合は32.9%に達します。将来的な放出の可能性を前提とした自己株式の保有ならば、この自己株式の取得は単なる配当の節約に過ぎず、株主還元ということはできません。

そこで、SCは自己株式の消却を株主総会で決議できるようにすること、そして保有する全ての自己株式を消却することを求める株主提案を行いました。