淀川製鋼所の株主価値向上に向けて

株式会社ストラテジックキャピタル及び同社の運営するファンド(以下、総称して「SC」といいます。)は株式会社淀川製鋼所(以下「淀川製鋼所」又は「当社」といいます。)の株主です。SCは淀川製鋼所に対し、株主価値向上のため、株主提案権を行使して次の議案を提出いたしました。

株主提案の概要

  • 株主提案1.配当性向100%、DOE6%を株主還元方針とすること
  • 株主提案2.PBR1倍以上を目指す計画を策定し、開示すること
  • 株主提案3.買収防衛策を廃止すること
  • 株主提案4.株主優待制度を廃止すること
  • 株主提案5.自己株式を消却すること

株主提案の背景及びポイント

長期にわたる株価の低迷と経営改革の必要性
PBR1倍以上を目指す計画を策定・開示する 【株主提案2】
  • 当社の株価は、過去25年間PBR1倍割れが常態化しており、2024年3月19日現在のPBRは僅か0.71倍と、極めて割安に放置されています。
  • 2023年3月、東京証券取引所は、上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。当社は2024年3月末現在、当要請への対応方針を未だに公表していませんが、PBR1倍割れが常態化している当社においては、特に踏み込んだ対応が求められます。
  • 長期にわたる株価の低迷から抜け出すには、抜本的な経営改革や資本政策の変更が必要であることは明確であり、そのために、上記の東京証券取引所の要請に対応した具体的な計画を策定し公表することを提案いたします。
過大な水準に積み上がった自己資本
配当性向100%、DOE6%を株主還元方針とする 【株主提案1】
  • 当社の自己資本比率は約72%と非常に高い水準であり、このように過剰に積みあがった自己資本が、低水準なROEの一因となっています。資本効率の改善および安定した株主還元に向け、配当性向100%、DOE6%を株主還元方針とすることを提案します。
  • また、当社は政策保有株式や賃貸等不動産といった本業とは無関係の資産を大量に保有しています。これらは売却をし、事業投資および株主還元へ活用すべきでしょう。
ガバナンス等の改善①
買収防衛策を廃止する 【株主提案3】
  • 当社は買収防衛策を導入していますが、2023年6月開催の第124期定時株主総会では僅か63.70%の賛成率での可決となっており、これは国内外機関投資家を含む多くの当社株主からの本買収防衛策に対する批判の表れだと考えられます。当社が買収されることが、当社の経営陣にとって潜在的な脅威として存在するならば、買収防衛策ではなく、買収されないよう株主価値を高めることが、株主にとっては望ましく、また本来のあるべき姿であり、買収防衛策の廃止を提案します。
ガバナンス等の改善②
株主優待制度を廃止する 【株主提案4】
  • 当社は予てより株主優待制度を導入しており、2024年2月27日に公表された株主優待制度 では、カタログギフトおよびヨドコウ迎賓館株主様入館券を対象株主に配布しています。
  • しかし、大株主にとっては、保有株数が増えても一律の便益しか得られず、不平等な制度となっています。また、機関投資家は株主優待券の受領を拒否することもあり、その場合は全くメリットがありません。仮に、自社の商品やサービスなどを提供する株主優待制度であれば、商品やサービスの認知度が向上することで、間接的に業績が拡大し、株主価値の向上に寄与する可能性が考えられますが、当社の株主優待制度は本業とは全く関係のない内容であり、そのような効果も見込めません。
  • そのため、当社の株主優待制度により株主が平等に利益を得ているとは言い難く、株主優待制度を廃止することを提案します。
ガバナンス等の改善③
自己株式を消却する【株主提案5】
  • 当社は2023年9月末時点で約565万株もの自己株式を保有しており、これは発行済株式総数の16.2%にも相当します。
  • 一般的に、M&A取引等の際にその対価として使用することを想定して自己株式を保有する場合はありますが、当社は政策保有株式や賃貸等不動産をはじめ、過剰な資産を保有しており、仮に良いM&Aの機会があった場合でも、保有資産の売却等により資金を充当すべきでしょう。一方、当社が自己株式を大量に保有し続けているこの状況は、株主にとっては、いつでも当社株式の希薄化が行われ得るということを意味しています。
  • そのため、自己株式を全て消却することを提案します。

淀川製鋼所が抱える課題と解決策

PBR1倍を超えられない株価

当社の株価バリュエーションは、1998年以降、PBR1倍を下回って推移しています。また、足元でもPBRは約0.7倍と非常に低水準となっています。当社の株価推移からは、当社の経営方針が、株主の利益を毀損してきたことが明らかであり、株主価値の向上のために経営方針や資本政策の転換が必要です。

PBR(1995年〜)

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成)

資本コストを下回る資本効率性

PBR1倍割れが常態化しているのは、ROEが株主資本コストに満たないことが主因です。SCは当社の株主資本コストは約9%程度だと推測していますが、ROEはその水準を大きく下回る状況が継続しています。また、中期経営計画におけるROE目標は僅か5%であり、株主資本コストを明らかに下回っています(なお、2024年3月8日時点で当社の株主資本コストをBloombergは10.2%、Quickは9.3%程度としています)。株主コストを上回るROE目標を設定し、実現に向けた中期経営計画を策定し直すべきでしょう。

ROEの推移と株主資本コスト

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成)

一部事業や地域では、撤退を含めた検討が必要

当社は、主力事業である鋼板関連事業以外の利益貢献が極めて低い状況です。特にロール事業は赤字になることも多く、清算を含めた経営改革の検討が必要です。不動産事業は、資本効率を上回る資本効率の実現が理論的に不可能(詳細後述)であり、賃貸等不動産やゴルフ場、迎賓館等の不要な資産は売却を行うべきです。

セグメント別 売上高、営業利益の推移

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成)

また、地域別では、営業利益の大半を淀川製鋼所(日本)とSYSCO社(台湾)で賄っています。中国及びタイについては、参入時点の想定とは実態が異なる点も存在しており、撤退を含めた経営戦略の再検討を行う必要があると考えます。

地域別 売上高、営業利益の推移

(出所:当社公表資料より弊社作成)

高すぎる自己資本比率

当社の自己資本比率は、70%以上と非常に高水準であり、大手鉄鋼会社と比べても自己資本比率の高さは明らかです。これは資本コストを上昇させ、ROEを低下させるという両面において悪影響があります。当社がPBR1倍割れを解消するためには、株主還元方針を配当性向100%・DOE6%に変更することで、徐々に自己資本を圧縮し資本効率の改善を図ると共に、安定した株主還元を行っていく方針を示すべきです。

自己資本比率とROEの比較表

(出所:QUICK Workstation(Astra Manager)より弊社作成)

本業とは無関係の無駄な資産(政策保有株式、賃貸等不動産)の保有

当社は約280億円もの政策保有株式を抱えています。政策保有株式は、多くの問題を抱えており、即座に全売却し、本業に投資しきれない売却手取り金は配当の原資とすべきです。

政策保有株式の問題点

また、当社は複数の不動産を保有しています。しかし、不動産賃貸業では、資本コスト以上のリターンを実現することが理論的に不可能です。J-REITの分配金利回りは、2024年4月18日時点で平均4.4%、最高でも5.5%程度であり、株式と比べ、低リスク・低リターンの商品であるといえます。一方、当社が不動産賃貸業を行う場合、レバレッジ及び法人税の影響により、REITと同程度のリターンを確保することは困難です。投資家は、当社の株式とは別にREITへ投資する選択肢があるため、当社が不動産賃貸業を営むことは不合理といえます。賃貸等不動産、ゴルフ場、ヨドコウ迎賓館等の不要な資産は売却すべきでしょう。

賃貸等不動産のリターン